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夏の星座群 |
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顔の真ん中に夏の星座が現れた。
現れては消え、消えては現れる。 中には消えない星もあって、だから星は増え続ける。 「北斗七星ですね」 星を見つけた人は、指差しながら微笑んでくれる。 学校で習ったの、そうなの。 「カシオペア!」 正解。よくできました。 先生が言ったの、そうなの。いい先生だったのね。 しばらく、誰にも見つけてもらえない日が続くと、もしかしたらと思う。 誰かの願い事を叶えながら、星が全部流れてしまったのかもと思う。 そうして鏡を見て、ああ、やっぱりと思う。 みんなもう慣れてしまって、星があるのは当たり前だから、だから何も言わなくなったのだ。 たったそれだけのことだった。 花火が好き。 花火は星を見えなくするから。 花火は夏の深くて長い闇を、一瞬明るくしてくれるから。 花火が好き。 花火が好き。 花火は、すぐに終わってしまうけど。 唇の上に、新しい星が生まれる。 白く光る星であった。 |
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胸いっぱいの愛を |
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子供の頃から、呑むことはあったが、大人になるにつれてだんだんと増えた。
社会に出て人と接する場面が多くなると、ますます呑む機会が増えた。 毎晩がそうであり、毎朝がそうであり、毎日がそうであった。 気がつくと、ほとんどの時間、呑んでいた。 一人でいる時以外、呑まなければ生きていけなかった。 「これって、発泡酒のビールだろ。 なあ、発泡酒のビールだよなあ……」 「……。」 子供の頃から、呑むことは得意だった。 でも、好きというわけではない。 得意なことと、好きなことは所々でずれていた。 呑みすぎたので、胸がいっぱいになってしまった。 呑みすぎると、いつも胸がいっぱいになる。 それから、吐き出したくなる。 そうしなければ、きっと胸の中から破壊されてしまうだろう。 一人の場所と時間をようやく取り戻したら、とめどなく吐き出し始める。 呑み込んだ言葉のすべてを、胸いっぱいのすべてを。 この夜の向こう側にいるはずの何人かの読者に向かって。 投稿ボタンを押す人差し指が、微かに震えている。 |
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いい人の話 |
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田中くんは遅刻魔である
9時からの勤務だとすると だいたい10分20分は遅れてくる ひどい時には1時間遅れたり 昼過ぎになってやってくる 山田さんは欠勤魔である よく風邪をひきよく行方不明になる 月水金と入っているのだけれど 今週は金曜日しか来なかった 水曜日などはもう1年も入ってない 渡部くんは万引犯である 笑顔のさわやかな好青年だが 帰る時にはいつもマイバッグを いっぱいに膨らませて帰る 店の商品をこっそり詰めているのだ 村田さんは無法者である よく椅子を投げたり蹴ったりする 命令に従わない者には 容赦なく暴力を振るい怪我をさせる 店長さえも怖くて逆らえない 田中くんや山田さん 渡部くんや村田さん という人には 一度も会ったことはない あれやこれや みんなのことを親切に教えてくれるのは 先輩の板倉さんである 「悪い人ではないんだけどね……」 (どこがだよ) 心の中では 無数の突っ込み それで僕は いつものように適当に返事をしました 生きていくため そして 適当に働いて |
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すれちがい |
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自転車はなるべくゆっくりと
今にも止まってしまうほどゆっくりと 進んでいく 歩行者はなるべく速く もう少しで離陸するほど速く 歩いていく 相手のペースに合わせようと ふたりはくたびれるまで 精一杯の無理をしていたけれど とうとう限界の時がやってきた 彼は止まり 地上に降りた (これからはふたりならんでゆっくりいこうよ) ほんの僅か一瞬先 彼女は陸を離れ 飛び立った 星々のきらめく空へ |
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伝言ゲーム |
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「お風呂をいれてくれ」
父が、東京タワーの上から母に言うと、 母は、それを真っ直ぐに受け取って次の人に回す。 「おふくろといってくれ」 懇願するように伝えられた言葉を、 兄は泣きそうな目で噛みしめながら下を向いている。 「コブクロを歌ってくれ」 ほとんどすり切れそうな声が、 姉の耳に届くと、姉は一度だけ首をひねった。 「出て行ってくれー」 弟は、信じられないという顔で、その言葉を聞いた。 地上に一人足をつけながら、東京タワーを見上げる。 誰の顔も、 見れなかった。 |
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読書友達 |
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本を読んでいる。飛びながら本を読んでいる。
月の本をエウロパの明かりで読んでいる。 ひらひらと風が物語をめくってゆく。 12人目の宇宙人が見つかったところだよ。 うそみたいな話だけど、まるっきりうそとは思わない。 まるっきりうそと思った瞬間、翼は折れる。 翼は消える。翼は紙くずの夜になり堕ちてゆく。 さようなら。もうおしまい。 起承転結の行方不明になった曲がり角にて。 「飛びながら、読むのも大変だね」 友達が言う。友達は燃えながら、本を読んでいる。 燃えている時間は生きている時間なのだ。 本は、よく燃えるから、友達はずっと生きている。 登場人物は、次々となくなってゆく。 なくなるたびに、明日の曜日を思い出す。 なくなるたびに、生きている自分を見つける。 飛んでいる時間は、時間が速く過ぎる。 2本足で過ぎる動物みたいに、速く過ぎるんだ。 戻れるだろうか、蝶や蜻蛉の散歩道に。 橋の下の猫の隠れ家に。 「次は、何の本を読むの?」 友達が訊く。友達は、本の中にいる。 本の中にいるから、すぐに年老いて、すぐに死んでしまう。 それでいて、いつまでも生き続けている。 「読み終わってから、考えよう」 もう見つけてあるとは死んでも言わない。 飛びながら、読みながら、ちらちらとよそ見する。 ギリギリのところ、現実を見ているのだ。 ページが尽きる頃、次の飛行計画はできている。 少しは、自分の道も歩けばいいのにね。 本を読んでいる。飛びながら、本を読んでいる。 死んだように飛びながら、本を読んでいる。 飛んでいる時間は、生きている時間だ。 |
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