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クレーター
ふつふつとようやくにして
気泡が現れる様子
まるで何かが誕生するように


まだ新しいと思っていたのは
間違いだったろうか

確かに踵の部分に違和感を感じる
私はきっと
踵の一部分だけが素の人間
繰り返し地球を踏みしめた経験が
重くのしかかって生じた
ダメージが
ついに決定的となって
生身の肉体をさらけ出そうとしている
まだ周辺からは見えない部分
地球と私だけが
その接触によって足裏の真実を共有していた

 (捨てなければならない、
 (穴の空いたものは


一掴みのパスタを投げ入れ
私は塩を振り入れた
瓶の中には十分な量が残っているのに
パラパラと
零れ落ちないのはなぜだろうか?

アルデンテを通り過ぎる頃
家のチャイムが鳴って
ドアを覗き込むと
見覚えのある頭の天辺が見えた

久しぶりにこの星に帰って来た


父がひとり

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テーマ:自作詩 - ジャンル:小説・文学

【2007/08/29 00:24 】 | できそこない道 | コメント(2) | トラックバック(0) |
獅子の知らせ
自動ドアが開く僅か
その間から
蝉の声が入り込んでくる

今日は
自動ドアが鳴いているので
午後は雨かもしれない

おはよう
と入り込んできた
岡本さんの頭が
クルクルと巻かれているので
やっぱり
もうすぐ雨らしい

雨が近づくと
岡本さんは
獅子に近づく

テーマ:自作詩 - ジャンル:小説・文学

【2007/08/28 17:22 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
行列ゴーホーム~作文教室
終わりがない行列に
どうして並ぶことができるだろう




階段は僕の記憶より遙かに短かったのに、登りきったところで僕が見た人の列は測り知れない長さだった。
あらゆる列には順序がある。
始まりがあり、終わりがある。
3号車乗車口、その周辺にある列を辿ってどこかにあるはずの切れ目を探したのだが、ついに見つかることはなかった。
列は何列とも呼べるものではなく、どこかはどこかへ折り返しきっとまたどこかへ続いているのだろう。
あるいは、最初はそうだったのだ。
今ではそれはあらゆる境界を失って、人の塊と化した。
遙か遅れてやってきた者は、今立ち止まった現在地に、ただ立ち止まったのか並んだのか割り込んだのかもわからない。
ちょうど僕がそうであるように……。
ただ例外なく、人の視線は刺すように冷たい。

気がつけば僕は先頭車も通り過ぎてしまって、乗車口からも、待ち人の群れからもそっぽを向いていた。
外はよく晴れていて、見下ろせば大勢のタクシーたちが集まって何かを待っていた。
けれども、僕の背後にある光景に比べればそれは何と落ち着いて秩序だった形だろうか。
あのように人が並んでくれていたら、迷わず並んだだろう。
たとえそれが一番最後の最後だろうと、僕は並んだのだ。
岡本さんの予想は完全に外れた。
僕の予想通りに。

ようやく、ドアが開いて待ち構えていた列の残骸を一気に飲み込み始めた。
発車時刻間際になっても、乗車口から人影が消えることはなく、車内を覗き込むとやはり席に溢れて立っている人の姿が目立つ。
僕は決断を迫られていた。
2号車の入り口の向こうには、車内に進むことを諦め、既に疲れ切った顔をした人々が足を止めている姿が見受けられる。
淡い期待を打ち砕かれながら、まだ僅かな希望を抱いて3号車の様子を見に走った。
状況はより酷かった。
すぐさま引き返すと、さっきよりも少し状況の悪化した2号車に飛び乗った。
少し前逃げ出した人波の中に、僕は進んで吸収された。
今度は逃げることも、もう選べない。






*

連結部分には人々の諦めが連なっていて薄暗い。
僕は諦めをかき分けて、車内に進入した。
少し行けば、今よりはましな場所があるはず……。
と思った時、地べたに座り込んでいる女が僕の歩みを完全に止めた。
進退の窮まった場所で、僕は必死に自分の居場所を主張するしかなかった。
神戸辺りで僕の背中が人々の往来を邪魔し始めて、僕はリュックを下ろすと勢いをつけて天棚へ放り投げた。
少しだけ軽くなった。
この場所で生きる覚悟を決めた。



何もしないでいると、時間は余計に停滞する。
携帯を開き、さっきまで見ていた冗長的漫才の感想を冗長的メールに打ち込む。
冗長文は、哲学でありナンセンスであり遅延行為でもあるのだ。
だらだらとだらだらと、やたら長い文脈を連ねる間に幾つかの停車駅を過ぎ、幸運に恵まれた人が降りていく人と入れ替わり座る場所を手にしていた。
福山駅でようやく僕の番がきた。
眠ることも、リュックの中にあるお茶を飲むことも自由だ。
けれども、僕はただ座れたことに満足することにした。
次の駅で隣の人が降りると、今度幸運を手にしたのはずっと僕の後ろに立っていた男だった。
座るや否や煙草を口にして、立て続けに2本、3本と吸い始めた。
ずっと我慢していたのだろうな……。
男は、ただ座れたことだけでは満足できなかった。
僕は座れることになった幸運には感謝しながらも、ここが2号車であることの不運を思った。白い煙が容赦なく流れて、僕の時間を黒く包んでいく。




20分くらいある乗り継ぎの合間に、うどん屋に入った。
目が合ったのに「いらっしゃいませ」もないほど、僕は歓迎されない客だ。
2分ほどして静かに出されたうどんは、うまくもまずくもなかった。
石川食堂のうどんが食べたくなった。
まだあの店はあるんだろうか……。



車窓から見える緑は、やがて闇に溶け込んでいった。
窓に頭をぶつけるまで、しばらく眠った。
駅で降りたのは僕一人だった。





恐る恐る腕に姪を抱いた。
顔を見ると、今にも泣き出しそうになっている。
命の重さは、約5キログラムだった。



真っ暗の庭の中に、父は座っていた。
僕も隣に座った。
生い茂った木々の隙間を通して、空に花火が見えた。
年に一度、この町の花火大会だ。
この一時間に間に合うために、あの時僕は飛び乗ったのかも知れない。
夜に咲く美しい花々に見とれながら、椅子に深くもたれると、背もたれがミシミシと音を立てながらひび割れた。
この椅子に最後に人が座ったのは、いつなのだろうか……。
花たちが呼吸を整える間、後ろで蝉の鳴き声が浮き立ち、空には星が現れた。
音もなく点滅しながら過ぎていくのは、宇宙人の船かもしれない。
肘掛けに肘を置くと、ビキビキと音を立てて肘掛けは土に落ちた。
人を待ちすぎたためか、もう椅子は朽ちているのだ。
最後の一花が咲くのを待つ間、空に星座を探した。
父は見つけられず、僕は偽物の北斗七星をこっそりと見つけた。
それから本物の花火が、夜ひとつを覆った。



*

モニターを覗き込みながら、これは何だと聞くので、
作文だと答えた。
家を出る時、父はどこからか一冊の文庫本を持ってきて、
僕に差し出した。
古びた表紙には、『井上ひさし……の作文教室』と書いてあった。


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【2007/08/27 00:46 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
揺れないネット
足の裏でボールを受け止めた時
地球に乗っていることを
実感する

初めて人を抜いた時
少し上達を感じた

サッカーが好き

顔を上げれば
いつもゴールがあって
ネットを揺らせば
偉業を成し遂げたように
祝福される

誰を抜くというわけでもない
詩は
どこに向かって書くのだろう

いかなるフォーラムで
何人と
一体になれるというのか

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【2007/08/26 16:25 】 | 好きに書いた詩 | コメント(0) | トラックバック(0) |
終末の予感
わかっていることと
わかっていることは
時々ちがう

      *   *   *

雨が降ることはわかっていた
それで不思議と
僕らは外にあるものを
なかなか片付けようとしなかった

もうすぐすごい雨になる
それはよくわかっていた
それで僕らは
普通に動いていた

突然
雨が降ってきた

  (まあ わかってたんだけど

ものすごい雨だ

  (まあ わかってたんだけど


 「雨が降ってきたぞー!」

 「おーい、大変だー!」


僕らは楽しそうに騒いだ
この時を
まるで待っていたかのように

ボロボロのレインコートを着て
激しい雨の中を
慌てて片付けている

それにしても この雨
ひどい降り方だ

  (まあ わかってたんだけど

空が光る

数秒して
雷の落ちる音がした

地球も壊れるんじゃないか?


僕も思っていた

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【2007/08/25 09:43 】 | できそこない道 | コメント(2) | トラックバック(0) |
積もらない話
「お久しぶりです」

現在の時刻を
正確に
述べ合ったような

名前を告げない
自己紹介のような

唐突に
急を要さない
生存確認のような

不思議な儀式

「お久しぶりです」

勢いは先頭がピーク

言うことは
意外なほどそれだけ
今日はこれでお別れです

何も言葉が見当たらないのは
やはり 久しぶりだから
それとも 見知らぬ人だから

またいつか会った日には
同じように言うのでしょう

「お久しぶりです……」

逃げ行く語尾を
少しの微笑で
風船のように魅せながら

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【2007/08/22 19:19 】 | 好きに書いた詩 | コメント(0) | トラックバック(0) |
お墓参り
無断駐車お断りと書かれた空き地に、
油断なく車を止めて、細い道を歩いた。
突然急な上り坂になって、それから更に細い道に入った。
虫に刺されながら少し歩くと、少し懐かしい墓場に辿り着いた。
最も古びた墓が家の墓だ。

持ってきたほうきで適当に掃除して、榊を差し入れた。
強い風が吹き荒れる度に、頭上に生い茂った木々がそよいで、
今にも落ちてきそうな気がする。

7つ連なった墓の頭に、たっぷりと水を注いでいった。
その中には家系図が混乱して、もはや誰かわからない名前もあったり、
先週、坂野さんが仕方なく遺灰を埋めたという墓もある。
家族で順番に手を合わせて、お祈りを捧げた。

全く関係のない他所の墓を参りに行っていた兄ちゃんも帰ってきて、
適当に手を合わせた。
それからお墓をバックに集合写真を撮った。
僕らは7人だったけれど、目立ちたがりの霊が出てきて整列に加わったため、
シャッターを押す頃には、13人くらいになっていた。

久しぶりの撮影を終えて、階段を下りた時、
もう墓場には生きている人は、一人もいなくなっていた。

帰り道、恐ろしい突風が吹き荒れて僕たちの歩みを止めた。
砂が舞って、姉ちゃんは腕で顔を覆っている。
久しぶりにやって来た人たちが、すぐに戻って行くのはとても寂しい。
だから彼らは、時に邪魔もする。
帰り道まで風を使わせて。



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【2007/08/20 16:52 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
パトリックさんにクーポン券を
パトリックさんは2メートルもあって、
まるで高い壁を見上げるように、
僕はパトリックさんに礼を言った。

パトリックさんは外国人だから、
クーポン券は渡さなかった。

友達の女性は日本人で、
荷物の引渡しを待ちながら、
手の上でクーポン券を眺めている。

「もらった?」

そう言って、楽しそうにパトリックさんの方を見た。
パトリックさんの顔に、不思議の欠片が浮かぶのを見て、
僕は大慌てで、
パトリックさんにも、クーポン券を手渡した。

「ありがとうございます!」

パトリックさんは笑顔になった。
パトリックさんは、ラリー会員だし、
日本語もとても上手い。

「ありがとうございました!」

僕は普通のことをして、良いことをした気分になって、
パトリックさんとその友達を見送った。


続いて、大食漢がフロントにやって来た。
彼もまた外国人で、
だから僕は、クーポン券は渡さなかった。
店の入り口付近で、
彼がパトリックさんたちと合流するのを、見るまでは……。

僕は走って行って、
大食漢にクーポン券を手渡した。

「ありがとう!」

彼も、やはり日本語で礼を言った。
随分忘れっぽい店員だと、思われたかもしれない。




「差別と区別は違うんだぞ……」

昔、
担任の先生が自信満々に言っていた言葉、
まるで意味がわからなかったけれど、
未だに、わからない。

誰にも寂しい思いをさせず、
平等にプレゼントを贈ることが、
僕らにできるだろうか……。

外と内を隔てる、
人の作った寂しい境界を、
僕らはいつになったら、
越えられるだろうか……。

案外、それは数センチばかりの
低い壁かもしれない。

天井に届きそうな、
パトリックさんの頭を見上げながら、
僕の手の中では、
8月のクーポン券が、
次に渡すべき相手を探していた。

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【2007/08/15 16:03 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
魚と誕生日ごっこ
自動ドアは
少しだけ手動だった

店に入ると
古びた狸の化石と
目が合った

僕らはテーブルに着いて
誰かが来るのを待った
メニューを見ながら
メニューを見ながら
飽きるほど
見た頃になって
生温いおしぼりと共に
誰かがやってきた

メニューにある
ほとんどのものは蒸発していて
実在する魚を注文した

話さなければならないことがあった

 (終わりについて
 (そのためにここにいる

僕らはどうでもいいことを
ひたすら選んで話し続ける

 板前はまな板の上に魚を載せて
 右手に包丁を持ったまま
 びくりとも動かない

 店の電気が一つずつ消されていき
 僕らのテーブルだけが
 二人だけの誕生日のように灯っている

どうでもいい話は
どこまでも心地良く
深海のブルーに染まっていくけれど
ようやく訪れた
もはやこの世のものではなくなった魚が
現実世界に引き戻してしまった

味わいを拒むようにして
無口になった僕らの中へ
魚は滑り落ちていき
ついに一切の欠片も失った

 (話せなかったことがある
 (終わりについて

何も切り出せないまま
もう
誕生日ごっこはお休みの時間に
寂しさを灯したまま
僕らはそこを離れて

入り口で
また狸と目が合った
横に掲げられたカレンダーは
まだ先月のままで

僕らは黙って


それも見過ごした

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【2007/08/08 20:43 】 | できそこない道 | コメント(2) | トラックバック(0) |
開かれた世界
朝がカーテンを開き
夏が海を開くように
電車の中では
みんなが開いている

男は股を開き
女は本を開いている

子供はニンテンドーを開き
ビジネスマンはパソコンを開いている

青年は携帯を開き
オーナーは店を開いている

坊さんが悟りを開き
主婦が魚を開いている

みんな自由に
それぞれ好きなことを開いている
誰に遠慮するでもなく
ここは開かれた世界だ

政治家はパーティーを開き
明るい未来を開いている

僕はノートを開いて
自分なりに
世界を開いている

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【2007/08/06 18:34 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
橋の上の足の下
新しく作り変えられた橋は
前よりも広くて綺麗だった

夕暮れの風を感じながら
すれ違う人々の歩みも
少し新しくなった気がする

橋を過ぎて商店街の奥深く
僕らはそれぞれ箱を抱えて
汗をかきながらやってきて

「ここら辺にしよう」

言った

道行く人に
円盤型のうちわを
配るのだ

早々とやってきた夏が
僕らに追い風を送る
道行く人は
給水ポイントにある水を求めるように
手を差し伸べてくる

隣でティッシュを配っている
おじさんも少し羨ましそうだ

手から手へと
僕らはメッセージを渡して
今日の仕事を終えた


少し涼しくなった夜の中
足取りも軽く
また橋のところまで戻ってくると
いたる所に
僕らの円盤が散乱していて
ばら撒かれたお日様のように
地面に貼りついていた

夜を急ぐ人たちが
影踏み遊びのように
容赦なくそれを踏みつけていく

僕は足を止めず
橋を渡った

満月から
少しだけ欠けた
月夜だった


テーマ:自作詩 - ジャンル:小説・文学

【2007/08/01 00:18 】 | できそこない道 | コメント(0) | トラックバック(0) |
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